「おー、そうかそうかココが気持ちいいか。」
「ニャー!」
野良のくせにやけに整った毛並みなのを見ると毛づくろいが好きなんだろう。
深夜のコンビニ。
ゴミ箱の前でジンジャーエールを飲みながらダラけていると、野良の黒猫が近寄ってきた。
暗闇の中で黄金色の瞳が爛々と輝いている。
心を許したのかゴロゴロと喉を鳴らしながらやたらと体を擦り付けてきた。
「おー、よしよし。そんなにコレが気に入ったか?ういやつじゃのう」
4本の指を使ってネコのノド辺りを優しく撫でると「ニャーン」と嬉しそうな声をあげる。
するとゴロンと横たわりお腹をコッチに向けてくる。
「まいりましたにゃー!」の服従のポーズだ。
そのまましばらくお腹も撫でてやったら、満足したのかどこかに去っていった。
…聞いた話によると、百獣の王も「コイツにはかなわない」と感じるとゴロリと横になって腹を見せて降参するらしい。
あの動物界の頂点に君臨する存在がお腹を見せて敗北を認める瞬間。
それを目撃できる者はいったいどれだけいるんだろうか。
動画を探したら似たようなものを見つけた。
ライオンに囲まれたヒョウが腹を見せて服従のポーズを見せ、逃走する動画。
あっさり敗北を認めたヒョウにライオンは一瞬で興味を失う。
今月初め、ケリーさんは保護区の南部でくつろぐライオンの群れ(プライド)を視察中1頭のメスが茂みの中を気にしているようすに気づいた。
黄色い枯れ草の保護色と同化するように1頭のヒョウが横たわっていたのだ。
「助けてくださいよぉ」と情けなく腹を見せるヒョウにライオンは戦意喪失したという。
自然界の上位に君臨するヒョウもライオンに囲まれればそそくさと降参を示し逃げ出してしまう。
この動画を見ていたら昔、初対面からものすごく偉そうな態度だった自称起業家?の青年(といっても年上)を思い出した。
まさにこの情けないヒョウみたいな感じだったから。
「よかったら会わないっすか?」
と誘われ軽い調子で会ったのは都内のちょっとオシャレなカフェ。
その男が登場すると周りが少しザワついてたのを覚えている。
明らかに存在が浮いていた。
全身をブランドで固め、ブランド物のバッグやサイフ、アクセサリーがジャラジャラしていて、靴が人を殺せそうなぐらい尖っていたのを覚えている。
「俺はここにいるぞーーー!」
と全身で主張していた。
腕時計もギラギラ光っていて「え?それ本当に機能してるの?」みたいな腕時計をつけ、
なんの動物の皮かもわからないようなクラッチバッグを片手に、
偉そうにふんぞり返ってソファにどかっと腰を下ろしたのが印象的だった。
お互い初対面。
その男が身につけるブランドの品格とはまったく釣り合わない不遜な態度に妙な違和感を抱いた。
…結局その男は某マルチの勧誘だった。
とんだ期待外れだったけど大きな学びも得た。
そのブランドの器にふさわしくなければ身につけているものが浮き出て見える。
っていう教えを受けたことがあるけれど、本当なんだと。
昔、経営者の方にこんなことを言われた。
「らいあんくん、よく覚えておきなさい。
自信がない男はね、全身をブランドで身を包み、己の価値を誇示しようとするんだよ。
自分を強く見せることで自分の弱さを隠しているんだ。
本当にブランドが好きな人というのはね、ワンポイントでいいんだ。
気に入ったものを身につける。それを気分で変えたりするくらいでいい。別に誰かに見せつけたいわけでもない。
もちろん見て好きになってくれたら嬉しい。
何より自分が好きだから着たり身に付けたりするんだよ。
それを身につけている自分が好きなんだ。
誰に何言われようが関係ないんだよ。
だから誰かに誇示したり見せつけるために身につけているわけでもない。
で、そういう品格を持つ人が身につけるブランド物というのは目立たないんだよ。
不思議に思うだろう?
でも、器のある者が身につければブランドはその人にふさわしい雰囲気になるんだよ。
で、もし興味を持ってくれる人がいたら、まるで長年連れ添った恋人への愛をささやくようにそのブランドへの愛を語るものさ。」
結局そこからその経営者にジャケットへの熱烈な愛を語られてしまって1着7万ぐらいのジャケットを一緒に買いに行った思い出がある。
まだぺーぺーの頃だったからわりと大金だった。
レジで会計を終えて後ろを振り返ると、彼はうんうんと満足げにうなずきながら
「まぁ、最初はこれくらいからスタートかな」
と。
…あれ以来、ジャケットが好きになった。
今まで知らなかった世界を広げられた貴重な思い出だ。
最近とあるブランドの腕時計をつけてみた。
けど、鏡に映った自分の姿はイマイチ決まっていなかった。
ぶっちゃけ不釣り合い。
世間的には高級と言われるその時計が浮いて見えた。
まだそういう器ですらないんだと思う。
まだまだ精進せねばなるまい、と反省した。